紙芝居を演じる 紙芝居の演じ方

更新:2007.04.01

実際に演じてみましょう

◆演じる作品 『ニャーオン』(童心社,1990年) / 脚本・都丸つや子 絵・渡辺享子

2006年10月15日に開催された、名古屋柳城短期大学フォーラム「紙芝居の魅力と演じ方」において、 右手和子先生の指導による実演講座が行われました。 ここでは、講座で、右手先生が『ニャーオン』を演じられた場面を再現しながら、 演じ方のコツをつかんでいくことにしましょう。 『ニャーオン』は、渡辺享子さんによる美しい絵が黄色いお月さまと白い子ねこをくっきりと浮かび上がらせて、 お月さまに興味津々の子ねこをユーモラスに描いた作品です。

導入

[写真]

紙芝居を始める前に一つだけお願いがあります。(舞台の)一枚目に入っているのは幕紙です。 この幕紙がスルスルスルと抜けてきたら大きな拍手をして下さいね。楽しそうに、盛大にやって下さい。
ソーレ!(掛け声だけ) 何人かつられて拍手(笑)
まだです、あわてないの。
いきます、ソーレ!(掛け声だけ) つられて拍手(笑)
そうしたら、肩幅から始めてたたく瞬間は皆いっしょよ。
さぁ!(肩幅から)寄せて寄せて、はいポン!(1拍手)
次は今よりもうちょっと早く、ポン!(1拍手)
(だんだん早くしていく)(長い拍手)
そうそう。じゃあ、はじめますよ。
紙芝居のはじまりはじまりー
拍手だーめ。約束したでしょ?幕紙が抜けてきたら拍手だって。 (笑)
まだ抜けてないのに手を叩いちゃって (笑)
(ちょっとだけ抜く) 拍手
今度はおそいの。抜かれてきたらすぐよ。 (笑)
今みたいな遊びを導入に使います。そうすると「ほら、おしゃべりしないの、こっち向いて」なんて言わなくてもいいでしょう。 紙芝居の1枚目は、大体作品の紹介アナウンス(登場人物・場所・時など)が入りますから、 読み始めるとすぐ静かになってきます。つまり、聞き手の準備がOKというわけです。

抜く

<抜く=動かす>です。ここで紹介する<途中で止める>と<さっと抜く>は、 紙芝居の特性を生かしたもので、紙芝居の演じ方としてぜひ勉強しておく必要のある技術です。 まず、<途中で止める>をやってみましょう。

[写真]

場面①
ニャーオン、上のほうを見てますね。
なに見てるのかな?
ねえニャーオン、なに見てるの?
ニャーあれはなにかニャー?
(半分まで抜く)

こうやって半分まで抜いて<途中で止める>と別の構図ができあがります。 ニャーオンが月を見上げているような場面になるでしょう。 2枚で3枚分の効果を生むわけです。 ここで、<抜く>と<止める>は、一体の動きであることに注意してくださいね。 止める位置がずれてしまうと、お月様を見上げている感じにならないでしょう?

 
[写真]

『ニャーオン』第8場面

次は<さっと抜く>をやってみましょう。

場面⑧
あっ あんなところにいた!
こんどこそ つかまえるぞぉー
それっ!(さっと抜く)
場面⑨

 
[写真]

『ニャーオン』第9場面

さっと抜くと、本当に飛び降りたように見えるでしょう。 ゆっくり抜いたらその感じは出ません。芝居をするのは読み手ではなく絵なのです。 だから絵を効果的に使う必要があるわけです。
<さっと抜く>は意外と難しくて、自分で思っているよりはずっと速く抜かないと、その感じは伝わりません。 <さっと抜く>は、一瞬のうちに抜くことです。

 

動かす

今度は<動かす>を勉強していきますね。
『ニャーオン』の場面⑨にでてくる水たまりを「バシャバシャ」するシーンなどは、これをやって一番気持ちのいいところです。 上下・左右・前後、全部を動かします。
もう遠慮なく思い切り動かしてあげて下さい。その方が子どもは喜びます。

[写真]

『ニャーオン』第11場面

もう一つ、<動かす>の効果的なところをやってみましょう。

場面⑪
「あー、おもしろかったにゃー。
こんどはなにをつかまえてあそぼうかなあ。」
(抜きながら)
トッコトッコトッコトッコ ニャーオン
トッコトッコトッコトッコ ニャーオン

上下に5ミリ動かしながら抜いていきます。

ほら、「♪トッコトッコトッコトッコ ニャーオン♪」と、歩いているように見えましたか?
この<動かす>で注意しなければいけないのは、絶対に画面全体を動かさない、ということです。 全体を動かすと、画面全体がとびはねてしまって、歩いているように見えません。
だから観客から向って右側はつけたまま、手で抜いていく側だけを動かすようにやってみて下さい。 動かす時は、なるべく小ぶりにやると上手くいきます。

 

それから、たとえば、獲物を見つけてそっと忍び寄っていく場面だとします。
「そぉーっと、そぉーっと」歩いていく感じをやってみましょう。
観客から向って右の下側はつけたままで、手にもっている側だけを持ち上げて、手前に引いて下ろす、 という動作を繰り返すと、「そぉーっと、そぉーっと」という感じが出ます。
でもね、ここで、次の画面が見えてしまいますね。せっかくドキドキさせる場面なのに、 「あれ?次は何かな」と、子どもの興味が移ってしまいます。ですから、そういう時は次のようにして下さい。
観客から向って右の下側はつけたまま、手にもっている側だけを持ち上げて引いてきて、 下ろすと同時に(画面を閉じるように)元の位置に戻します。
そうすると、次の絵を見せないで、「そぉーっと、そぉーっと」歩いていく感じが上手く出せますよ。

<間>と<抜く・動かす>、<間>と<ことば>はつながっています。 <間>には、どんなものがあるでしょう。
皆さん、話し続けるためには適当なところで息つぎをしますね。これが<息つぎの間>です。
それから、<話かわりましての間>があります。 一夜明けてとか、家から外に出るとか、そういう場面です。 そういう場面では、次の画面に切り替わるときに、すこしゆっくりと抜いてあげればいいのですよ。

<間>と勘違いされやすいものがあります。 今の紙芝居は、裏の文を、子どもでも読めるように、全部ひらがなで書いてありますね。 そこで、ことばの切れ目に一字分のスペースを空けてあります。これを<間>と勘違いされる方がいるのです。

場面⑪の裏
ニャーオン
「あー、□おもしろかったにゃー。
こんどは□なにを□つかまえて
あそぼうかなあ。」

これを、区切り通りに読んでしまうと、わかりにくいですね。 自分流に文章をつなげて、自分流の間を見つけて読んでもらえばいいと思います。 そのためには、やはり下読みが大切になるわけです。

演出効果の高い<間>として、<期待させる間>があります。
<期待させる間>の後には必ずといっていいほど<さっと抜く>がきます。 そして、<期待させる間>の後はだいたいお化けが出てきたり、あんまりいいことは起こらないの。 だから、その前の台詞は少し暗い調子で、「これから何かが起こりそうだぞ」という感じに子どもたちを引き込むように、 読んでいただくとよいと思います。

お化けが出てくる場面を例に
あたりが暗ーくなってきてー(低い声で伸ばす)
<さっと抜く>
出たっ!!(大きな声ではっきりと)

どの程度の<間>にするかは、子どもたちの表情を見て考えて下さいね。 じっと真剣に見つめているような時は2秒半くらい伸ばしても大丈夫。 あまり集中していないときは効果がありません。 <間>は、観客である子どもたちといっしょにつくっていくものなのです。

それから、もう一つ、演出効果の高い<間>に<余韻を残す間>があります。 これは最後の場面に多いですね。

[写真]

『ニャーオン』第12場面

場面⑫
ニャーオンのうしろすがたをたかーいそらのうえから、
おつきさまはじーっとみていました。
ニャーオン、おやすみ!
また、あしたね。
ばいばーい、ばーいばーい(だんだん小さく)

最後の「ばいばい」は、私がつけた台詞です。 子どもたちはすっかりドラマの世界に引き込まれていますから、「ばいばい」と言っているような顔で見てくれます。 それなのにね、「はいおしまい」で終わってしまったら、ドラマの世界は中断されてしまいますよ。
「ばいばーい」の後の余韻は「イチと、ニーと、サン」とゆっくり数えるような感じで伸ばすといいですね。 そして最後に「お、し、まい」と言ってすーっと幕紙を入れたり、そっと舞台の扉を閉めたりします。 余韻が残るでしょう。

 

ほとんどの方は<声>の演技力をもっています。 それを上手く発揮できないのは照れとか恥ずかしさのせいです。 子どもの前では、その照れは捨ててしまいましょう。そうすると、子どもの引き込まれ方も変わってくるものです。
「だめ」と禁止することばにもいろいろな意味があります。 頭から湯気が出るほどの怒りを表現するときの<声>は、大きな声で強く早く「だめっ!」と言います。
甘えて足にかじりついてくる子に優しく諭すように「だめ」と言うときはどうでしょう。 やわらかく、中くらいの声でややゆっくりめに「だーめ」となりますね。
<ことば>って、声に出すと随分と広がりがあるものです。 ところが、これを活字で表すときは「だめ」という2文字でしかありません。
演じるときは、この「だめ」はどういう気持ちで発する「だめ」なのか、ちゃんと理解して演じる必要があるわけです。

紙芝居に効果音を入れたいときは、入れていいと思いますが、あまり大きな音にしない方がいいと思います。
たとえば、トライアングルとかウッドロック、それから「吹き戻し」(吹くと巻いた紙がピューっと伸びるおもちゃの笛)なんかもいいですね。 太鼓を叩くときはおもちゃの太鼓にして下さい。そのくらいの大きさの音を入れるのは効果的だと思います。
作品によっては、効果音やバックミュージックを入れた方がいいものもあります。 たとえば『やぎじいさんのバイオリン』(童心社, 1985年)という作品は、バイオリンの音色が人の心をかきむしるお話ですから、 バイオリンの音を知らずにお話を聞くよりも、音があった方が効果的です。 他の先生に協力してもらって、録音したものをちょっと流したり、展開に合わせて音量を調節したりすると、効果的だと思います。
(採録) 2006年10月15日(日) 愛知県勤労会館にて